春。 今年はいつ咲くのかと 人々の気をもませながら 
街を 薄紅色に染めた ソメイヨシノが 散った後。
浮かれた春の賑いが 一瞬 すこし落ち着きをとりもどし
枯れ茶色だった山が 若芽の 銀色に輝くうぶ毛に光って
再び あらゆる命と 一斉に騒ぎ始める。
そんな 今頃の季節になると
必ず思い出す 本がある。
木葉井悦子さんの ≪やまのかぜ≫。
あたたかな陽ざしを浴びて やまに風が吹いていく。
風を感じる 匂いを感じる 空気をかんじる。
まるで ゴーギャンが 強烈に明るい太陽の下で輝く カラッと暑い 自然の空気感を 留めたように
木葉井さんは 日本の里山のニオイ、手触り、 水蒸気を含んだ大気の肌を圧迫する感じ、
りんかくとりんかくが じんわりにじみ 交わる 水分の多い 多湿な自然を、
たっぷりした筆づかいで そこに留めてくれている。
一日 一枚。
どこかのページをめくって
絵の中の 春山に
子どもの頃に もどって
のんびり あそびに出かけて いきたくなる。
いまは絶版になってしまっている。
すてきな絵が いつまでも残っていられるような
そんな 絵本の世界であってほしいと 心から願う。
やまのかぜ。 いつか どこかで また だれかの手に …
***
≪やまのかぜ≫ 最近また少し 本屋さんでも扱い始めたようです。
Amazonで見つけました。 復刊リクエストにも入っていました。
長新太さんが絶賛されていたということを 初めて知りました。
うれしいです。 木葉井さん。 木葉井さん、みてくれていますか。
| 23:38:10 | comment:0 trackback:0 [絵本] |
短歌なんかに 興味はなかった。 この本に出会うまでは。
気鋭の歌人、穂村弘さんが選んだ 新旧14首の短歌に、 寺門孝之さんが絵を描く。
本の題にもなっている 笹公人さんの歌
十二人家族のつくる納豆の大ドンブリのねばりを思え
本のつくりがちょっと変わってる。 見開きとなる 右のページに 短歌と、 絵が少しのぞいているだけ。 左のページは折りたたまれ 歌人の紹介文が載っているだけ。
正直に言うと 最初は「この歌は何を歌っているのだろう」などと じっくり考えず、
短歌を読んですぐに 折りたたまれた左ページを開け 絵の全体を見た。
そして 息がとまった。
そこにあったのは まさに 『十二人家族のつくる納豆の大ドンブリのねばり』 の世界だった。
短歌。五七五七七の三十一音の世界。
その三十一音から こんなに 奥底のしれない 深い世界が広がっていくとは。
よく知っている歌もある。 斎藤茂吉さんの歌。
みちのくの母の命を一目見ん一目見んとぞただにいそげる
自分の中にある この歌の風景。 それと比べようと ページをめくるのも もどかしく。
そして やっぱり 息がとまった。
こんな「みちのくの母…」もあったんだ。 でも確かに「みちのくの母…」。
心にシンシンと染みるように 母への思いが伝わってくる。 まさに「みちのくの母…」だった。
寺門さんが描く人は 『角(つの)』を持っている。
家族の短歌に 存在感がありなおかつどこか幻想的な 角のある人たちの絵が まさにぴったり。
この絵本の素晴らしさは 短歌と絵の融合によって 新たな世界の創造につながっているところ なのだろうと思う。
言葉の命が凝縮されている 三十一音と、 深い精神性を感じさせる絵が
同じ 一枚の紙の上に乗り 二つの世界が重なり合わさり 新たな世界を作り出す。
谷川俊太郎さんの詩に長新太さんの絵が添えられた時 たまらなく魅力的に感じるのと どこかしら通じるものがあるようにも思う。
それはまた、料理の出汁が昆布や鰹など、合わせることで それまで想像も出来ないような複雑でより深い味わいが生まれるのと どこか似ている。
ちょっと変わった本のつくりが そんな出会いに 小気味いい効果を付け加えることに成功している。
絵本の可能性を 無限に感じさせる一冊。
この本をより楽しむには
まず 右のページの短歌を じっくり眺めて 自分の中にその短歌の世界をしっかりつくってみる
そのあと おもむろに 左のドア(ページ)を ゆっくりと開く。
そこで交わる 歌人の世界と あなたの世界と 画人の世界。
短歌って 解らない… そんな心配をお持ちなら ちゃんと解説もついている。
それを読んだあと 短歌に立ち戻り 短歌の雰囲気をしっかりつかんだ後に
上記の読みかたをしてみると
この本の 不思議なつくりが がぜん生きてくるということに ハッと気づくのではないかしら。
全文ルビがふってあるのは 小さなお子から 短歌を楽しんで欲しいという 願いがあるのだろう。
そういう試みも含めて これから ますます このシリーズが進化していくといいなぁと思う。
願わくは 選者の解説は、絵に直に挿入されるのではなくて
巻末あたりにまとめるか、せめてもう少しトーンを落とした色にしていただきたかったなぁ。
短歌を読んで 自分の世界をつくったあと 左ページをめくったときの 爆発的なヨロコビが 解説の文字の色で 気が散って そがれてしまうから。
いつのまにか 短歌って面白い! ワクワクする! と思っていました。
つくってみよう! とまで思ってしまったのは、ちょっとノリすぎ?(笑
〔寺門孝之さんのHP〕 てらぴかのえんがわ
〔寺門孝之さんのブログ〕 てらぴかのえんがわ Today's Terapika
[ 穂村弘さんのブログ〕 穂村弘情報
☆ 納豆の大ドンブリ 早くも増刷決定!
いい絵本が復刻されたり、最近の絵本界、児童書界は
少し元気が出てきているのでしょうか。うれしい増刷のニュース。
☆ 納豆の大ドンブリ 『夏休みの本(緑陰図書)』に!
私の大好きな納豆の大ドンブリが、なんと、全国学校図書館協議会が選ぶ『夏休みの本』 に選定されたとのこと!
全国の子ども達に納豆の大ドンブリが手渡る姿を考えるだけで楽しい。
しかし、中学校での推薦というにはもったいない。
小学校でこの本に触れて欲しいと思うのは私だけ?
| 00:00:00 | comment:2 trackback:0 [絵本] |
大切な本がバラバラになってしまったとき …
あなたなら どうしますか。
私が幼稚園の頃に母が読んでくれた 大好きな本がある。
今は表紙も取れ、背表紙は失せ、もくじも何ページか欠けている。
それでも、その本は私にとってかけがえのない本。
この本を手放してしまったら 二度と会えない 絶版の本。
そんな本を よみがえらせてくれる フランスの本造り職人の話。
いせさんの絵は 柔らかい色あいと 的確なデッサン力で
物語を 静かに運ぶ。
少女が大切にしていた本。
バラバラになってしまった その本を 治してくれる 本のお医者さんみたいな人がいると聞いて
彼女は街を さすらう。
本つくり職人は 淡々と 今日も本を作り続ける。
パリの空。 風景も 時が止まったかのようで
長い年月 人々が工夫を重ね 積み上げてきた 職人の技は 伝えられ続けて
少女と出会う。
職人の技。 それは彼のお父さんから伝えられたもの。
彼女の本は 彼によってよみがえる。 そしてそれからまた 彼女と一緒に歩き続ける。
本がよみがえり 伝え続けるように
技も伝え続けられる。
職人は少女に 職人の人生を 伝えつなぎ、
少女は よみがえった本と 職人の手のぬくもりを いつまでも大切に 感じ続けながら
心を育て 自分の人生を育てる。
ものを大切にする ということは
人生を大切にする ということなのかもしれない。
〔いせさんの原画がパリで展示されるようです〕 関連HP ≪森のおうちTIMES≫
2007年3月10日イベントがあるようです
『絵本「ルリユールおじさん」原画展のプレイベント〜安曇野とパリを結ぶ〜』
| 21:51:03 | comment:0 trackback:0 [絵本] |
薬指の先ほどの 小さなふきのとう。
それほど苦くなくて 口の中で 噛み締めた。
のどの奥で ほろ苦い ふきの匂いが ゆっくり広がった。
***
『ふきまんぶく』 文と絵 田島征三 偕成社
黄みどり色は ふきまんぶく (ふきのとう) の色。
ふきちゃんという女の子が ながめる山には 蕗が生えている。
蕗とふきちゃんの ものがたり。
ふきちゃんと蕗が過ごす 山里の四季。 夏の星。 秋の木枯らし。 しばれる冬。
ふきちゃんと 蕗とのやりとりや オトナとのやりとりは わたしには少し退屈。
ただただ、 田島征三さんの もっこりもっこりした絵の具のかたまりに
身体ごとあずけて
ゆるゆる 山里の 季節の中を 流れていく心地よさが 楽しい。
ようやく春。ふきちゃんが ふきの生えていた山の斜面に よじ登ったとき
目の前に もこもこ ぽこぽこ あたまをのぞかせた
たくさんの ふきまんぶく。
枯れた草葉の間に
あったかな陽だまりのような 黄みどり色の
コロッと 厚みのある ふきまんぶく。
ちいさいころに 駈け回った 春の山の風景が
ふきの香りの風に乗って よみがえる。
***
絵本の外にはみ出していきそうな エネルギー溢れる絵。
絵のエネルギーは 大地のエネルギーを吸い上げたかのごとく。
言葉も絵に エネルギーを吸い取られているように感じる。
文章は絵と絵の間の説明にはなるが 私にはそれほど重要に感じられない。
それでもなお 私がこの本を好きなのは
圧倒的な 絵のエネルギーを感じたいから。
どのページを開いても 土の確かさ 自然の揺るがなさが 染み出してきて
身も心も がっしり包んでくれる。
春、ほろ苦い草の芽を摂り込みたくなる季節に
春のエッセンスを 自分の体液に 一滴垂らしたような気持ちにさせてくれる絵本だ。 この本は。
| 21:52:28 | comment:0 trackback:0 [絵本] |
≪はるにれ≫ を 手にするのは きまって
冬の寒さが 厳しくなり始める頃。
遠くない春を 待ち遠しく感じ始める頃。
最初のページは 晩秋を感じさせる 空の色 大地の草の色
それに気付いたのは
何度も手にとったあとだった。
写真だけ それも はるにれの写真だけ の 本。
晩秋からはじまった はるにれの写真は
霧に包まれ、 吹雪に煙り、 永い永い冬を通り過ぎていく。
雪夜のはるにれ。 幻想的な朝の光に包まれた はるにれ。
梢の先まで 白く凍る。 凍てつく大地。
緊張感が ふと ほどけ 春の空気が 伝わってくる。
その瞬間。
多分その瞬間が 私は一番好き。
絵本、とか、写真集、とか、ジャンルには関係なく
伝えたいものがここにはあるのだということ。
この本に 説明は 必要ではない。
ときどき 手にとって 静かにページをめくる。
私の 生活のなかには ≪はるにれ≫ と過す時間がある。
| 00:32:35 | comment:0 trackback:0 [絵本] |
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